だんごむし工房

ゆっくり楽しく書いてるよー

カイエソバージュ1-2 コノハナサクヤヒメの物語 ~えっ、美人だけじゃダメなの?~

中沢新一『人類最古の哲学 カイエ・ソバージュⅠ』講談社選書メチエ,2002】

〇過去記事はこちら
(第1回:神話の時代)
https://d-m-corocoro-studio.hatenablog.jp/entry/livre/cahier_sauvage/1-01

しま:
お昼ご飯にな、唐辛子の輪切りみたいなやつが入った焼きそば食べてん。
辛ウマでめっちゃおいしかったんやけどね、空気中のピリ辛成分にむせてしまって、
ゴホゴホやってたら、そのあと何故か鼻がすごく痛くなって・・・

鼻をかんだら、唐辛子が出てきた。

こと:
それを最初に言いたかったの?

しま:
うん。

こと:
そっか。

しま:
うん。

こと:
、、さて!!

前回に続き、中沢新一さんのカイエ・ソバージュⅠのお話をするよ!
早速だけど、しまちゃんと語りたい神話がある!

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しま:
燃えてるね!
こちらも鼻が熱いよ!

こと:
はい、ティッシュだよー。

記念すべき最初の神話は、古事記でお馴染み、コノハナサクヤヒメの物語。
中沢さんは、このお話をもって、神話というものがどういう語り方をするのかを解説してくれたの。

コノハナサクヤヒメの物語 
(『古事記』神代上巻 から、だんごむし工房意訳です)
(参考文献:池澤夏樹訳『古事記河出書房新社, 2014)

ホノニニギノミコト(番能邇邇芸命)は、笠沙の岬で美しい乙女に出会いました。

ホノニニギノミコトは乙女に「おまえは誰の娘か」と尋ねたところ、
乙女は「オオヤマツミノカミ(大山津見神)の娘で、コノハナサクヤヒメ(木花佐久夜毘売)と言います」と答えました。

続いて、「おまえには兄弟姉妹はいるか」と尋ねたところ、
乙女は「イワナガヒメ(石長比売)という姉がいます」と答えました。

そうして、「私はおまえと結婚しようと思うが、どうか」と仰せられたところ、
乙女は「私からはお答えできません。父オオヤマツミノカミがお答えします」と答えました。

そこで、ホノニニギノミコトが使いを送ったところ、乙女の父であるオオヤマツミノカミはおおいに喜んで、たくさんの結納品とともに姉のイワナガヒメを添えて、差し出しました。

しかし、その姉はたいそう醜かったため、ホノニニギノミコトはこれを恐れました。そして、妹のコノハナサクヤヒメだけをとどめて、姉のイワナガヒメを送り返してしまいました。

イワナガヒメを返されたオオヤマツミノカミは、ホノニニギノミコトに次のように申し送りました。
「私が娘を二人とも差し出したのは、イワナガヒメを受け入れればあなたの命が常に岩のように堅く動かずにいらっしゃるだろう、コノハナサクヤヒメを受け入れればあなたは木に花が咲くようにお栄えになるだろう、と誓約したためです。
イワナガヒメを帰らせて、コノハナサクヤヒメだけを留めたために、天つ神の御子であるあなたの御寿命は、桜の花のように短くあられるでしょう。」

このために、いまに至るまで、天皇たちの寿命は長くないのです。


しま:
うーん。なんか、やっぱり大味な物語やね。
前回の話やと、神話には、この世の理や生活のルールを組み込んでるってことやったけど・・・。
なんとなく、人が寿命を持っている理由らしきものを説明したかったんやろうとは思うけど、だから何なんだというか、しっくり来んかったわ。

こと:
わたしも同じ感想だったよ。
でもね、お話をしっかりかみ砕くと、この神話が表す世界が少しずつ見えてきて、中沢さんがこの話を選んだ意図がわかってきたよ。
まずは、登場人物が何を表しているのか、だよね。

しま:
神話は永い時間をかけて洗練された物語だから、名前ひとつにも細かく意味が込められてるって言ってたね。
コノハナサクヤヒメがお花、イワナガヒメが岩を表してるのはなんとなくわかったけど・・・。

こと:
古事記としては、天つ神であるホノニニギノミコトと国つ神の娘が結ばれるところと、人が綺麗なものだけを受け入れてしまい醜いもの(タナトス(死))を受け入れられなかったところが重要なんだって。
ひとつ目の「結ばれる話」はね、
「この神話は、当時九州に住んでいたひとと、朝鮮からやってきた異民族との結婚のことを取り上げているお話である」
と想像されるんだって。

しま:
異民族?
なんでやねん・・。

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こと:
ホノニニギノミコトは稲穂の神様。
日本列島に稲作をもたらしたのは朝鮮半島からの移民で、彼らと土着の民が結婚によって結ばれることによって、列島上に稲作の文化、鉄という道具、国家という社会形態を広め、それが繁栄につながった、と考えられるらしいの。

しま:
おおっ!
稲作が、そして日本という国が結婚によって繁栄するというお話やったんやね。
なんとなくしっくりきた。
しかし、古事記ってそんな感じやったとは。

こと:
娘の結婚を認めるのが親であることなんかは言わずもがな、
九州の縄文社会では、有力者の結婚は娘に姉妹があれば一緒にめとるやり方が一般的だったらしいんだって。
つまり、ホノニニギノミコトの行動は当時の非常識だったということになる。

ここから先は中沢さんの本には書いてないけれど、
「沢山の妻を娶ると、その力は長く続く(有力者の血筋を引く子孫が増える)一方、それをやめてしまうと栄華は短くなる。だから姉妹のうち一人だけをめとるようなことをしてはならない」
というような逆説的な意味も込められていたのかもしれないね。

しま:
異民族の常識の違い、かー。

こと:
そして二つ目の「綺麗なものだけを受け入れてしまう」ということ。
人間は、一見して美しいものに惹かれてしまい、恐ろしい形をしたタナトス(死)を受け入れることができないということを示している。

しま:
うーー。
急にタナトスとか言われても・・・結局何が言いたいんや?
岩石や永遠みたいなものと我々とは住んでいる世界や流れている時間が違う、遠い世界のお話なんだよってこと?
なんか腑に落ちないというか、スッとはしないよ。

こと:
面白いのはね、現代では腑に落ちないこの考え方に基づいた神話が、全世界で見つかるということなの。

人間は岩を選べないけれども、神話は、それを必ずしもダメだって言っているわけではないんだよ。
このことはね、次回語り合おうと思っている神話に書いているから、お楽しみに、だよ!

ちなみに広辞苑によると、哲学(philosophy)とは「物事を根本原理から統一的に把握、理解しようとする学問」だから、これらの神話はまさに哲学で、、、

しま:
あっ、本のタイトル!「人類最古の哲学」!!

しかしめっちゃ面白そうな取り組み・・・であるとともに、果てしなく困難な道のりやね。
でもでも、面白い!!

こと:
ちなみに、この内容は「比較宗教論」という名前で講義したらしいよ。
われわれド理系の蒙が啓かれるね!
(※こと・しまは、出自も考え方も全力で理系です)

というわけで、次回は、インドネシアのポソ族の神話からはじまるよ!

しま:
インドネシア?ポソ・・?!



※注意
この記事は、中沢新一『人類最古の哲学 カイエ・ソバージュⅠ』講談社選書メチエ,2002を元に記述しています。

カイエ・ソバージュを読んだふたりが興奮して語った、妄想の入り混じったトークの要約です。